歴史は未来を考え創造していくための教科書
-平成という時代の最後の終戦記念日に-今日8月15日は、73回目の終戦記念日。平成の時代では最後の終戦記念日になります。「元号」を指標とする時代の境目となる日とも言えます。
毎年甲子園でも、この日の正午には、試合を中断し、選手も観客も1分間の黙祷を捧げます。こうした形式を引き継ぎながら、最も引き継いでいかなければならないものは何なのでしょうか?
私は、「歴史」から成功についても失敗についてもその要件を学び、未来を考え創造していくという姿勢だと思っています。「歴史」に限らず、どんな「学習」でも、過去の事実や知見を現在や未来をよりよくしていくために活用するために為されるものです。
中学校では、小学校で学んだものをより詳しく学習していきます。それは、学ぶ主体者である生徒が児童であったときより成長し、より深く考えることができることと併せて、社会に出る時期に近づくことで現実と結びつけて考えられるようになるからです。しかし、こうした学ぶことの目的があまり自覚されず、入試など何かの手段としてのみ学ぶこと・学習がとらえられているようにも感じます。
今年の6月23日、沖縄慰霊の日に行われた沖縄全戦没者追悼式の中で、中学校3年生が次の自作の詩を朗読しました。その内容も朗読する声も姿も素晴らしく、多くの人々の心をとらえました。
「生きる」 沖縄県浦添市立港川中学校 3年 相良倫子
私は、生きている。
マントルの熱を伝える大地を踏みしめ、 心地よい湿気を孕んだ風を全身に受け、
草の匂いを鼻孔に感じ、 遠くから聞こえてくる潮騒に耳を傾けて。
私は今、生きている。
私の生きるこの島は、 何と美しい島だろう。
青く輝く海、岩に打ち寄せしぶきを上げて光る波、山羊の嘶(いなな)き、小川のせせらぎ、
畑に続く小道、萌え出づる山の緑、優しい三線(サンシン)の響き、照りつける太陽の光。
私はなんと美しい島に、生まれ育ったのだろう。
ありったけの私の感覚器で、感受性で、島を感じる。心がじわりと熱くなる。
私はこの瞬間を、生きている。
この瞬間の素晴らしさが この瞬間の愛おしさが 今という安らぎとなり 私の中に広がりゆく。
たまらなく込み上げるこの気持ちを どう表現しよう。
大切な今よ かけがえのない今よ 私の生きる、この今よ。
七十三年前、私の愛する島が、死の島と化したあの日。
小鳥のさえずりは、恐怖の悲鳴と変わった。
優しく響く三線(サンシン)は、爆撃の轟(とどろき)に消えた。
青く広がる大空は、鉄の雨に見えなくなった。
草の匂いは死臭で濁り、光り輝いていた海の水面(みなも)は、戦艦で埋め尽くされた。
火炎放射器から吹き出す炎、幼子(おさなご)の泣き声、燃えつくされた民家、火薬の匂い。
着弾に揺れる大地。血に染まった海。
魑魅魍魎(ちみもうりょう)の如く、姿を変えた人々。
阿鼻叫喚(あびきょうかん)の壮絶な戦(いくさ)の記憶。
みんな、生きていたのだ。
私と何も変わらない、懸命に生きる命だったのだ。
彼らの人生を、それぞれの未来を。疑うことなく、思い描いていたんだ。
家族がいて、仲間がいて、恋人がいた。仕事があった。生きがいがあった。
日々の小さな幸せを喜んだ。手をとり合って生きてきた、私と同じ、人間だった。
それなのに。
壊されて、奪われた。
生きた時代が違う。ただ、それだけで。
無辜(むこ)の命を。あたり前に生きていた、あの日々を。
摩文仁(まぶに)の丘。眼下に広がる穏やかな海。
悲しくて、忘れることのできない、この島の全て。
私は手を強く握り、誓う。
奪われた命に想いを馳(は)せて、心から、誓う。
私が生きている限り、こんなにもたくさんの命を犠牲にした戦争を、絶対に許さないことを。
もう二度と過去を未来にしないこと。
全ての人間が、国境を越え、人種を越え、宗教を越え、あらゆる利害を越えて、平和である世界を目指すこと。
生きる事、命を大切にできる権利を、誰からも侵されない世界を創ること。
平和を創造する努力を、厭(いと)わないことを。
あなたも、感じるだろう。この島の美しさを。
あなたも、知っているだろう。この島の悲しみを。
そして、あなたも、私と同じこの瞬間(とき)を一緒に生きているのだ。
今を一緒に、生きているのだ。
だから、きっとわかるはずなんだ。戦争の無意味さを。本当の平和を。
頭じゃなくて、その心で。
戦力という愚かな力を持つことで、得られる平和など、本当は無いことを。
平和とは、あたり前に生きること。その命を精一杯輝かせて生きることだということを。
私は、今を生きている。みんなと一緒に。
そして、これからも生きていく。 一日一日を大切に。平和を想って。平和を祈って。
なぜなら、未来は、この瞬間の延長線上にあるからだ。
つまり、未来は、今なんだ。
大好きな、私の島。 誇り高き、みんなの島。
そして、この島に生きる、すべての命。 私と共に今を生きる、私の友。私の家族。
これからも、共に生きてゆこう。
この青に囲まれた美しい故郷(ふるさと)から。真の平和を発進しよう。
一人一人が立ち上がって、みんなで未来を歩んでいこう。
摩文仁(まぶに)の丘の風に吹かれ、私の命が鳴っている。
過去と現在、未来の共鳴。
鎮魂歌(ちんこんか)よ届け。悲しみの過去に。
命よ響け。生きゆく未来に。
私は今を、生きていく。
今日8月15日は、73回目の終戦記念日。平成の時代では最後の終戦記念日です。3年生は入試に向けた勉強に勤しんでいることと思います。2年生・1年生も夏休みの宿題を早めに終わらせようと頑張っていることでしょう。でも今日は、勉強してきた歴史を踏まえ、私たちはどんな未来を築いていくべきかも考えてみましょう。未来につながる今、ちょっと立ち止まってこれまでを振り返り、その上で未来を考え、未来を創る努力を厭(いと)わない決意をしてもらえたら・・・と願っています。